国会議事録:指紋押捺・特別永住資格と「歴史的経緯」

資料ア

104 - 衆 - 法務委員会 - 4号 昭和61年04月08日

○横手委員 私は別に大臣に法を曲げてくださいとかいいかげんなことをしてくださいとは断じて申し上げておりません。法はきちっと守るべきであるし、我ら法治国家の中にあるわけであります。しかし、それがどうもそぐわないときには変えるということが我々はまたできるのでございますから、そういったことも大臣の念頭の中にあればということを申し上げて、次に入ってまいりたいと存じます。

 次に、定住外国人の処遇問題であります。

 いわゆる指紋押捺が去年大変大きな問題になりまして、あるいは諸外国からもいろいろと意見も出された問題でございました。特に私はきょう、在日韓国人、台湾人の問題について取り上げてみたいと思うわけでございます。これらの人たちは戦争中に我が国に強制的に連れてこられた方々で、当時は日本人として来ておられたわけでございますが、敗戦と同時にこれらの人たちの国籍は移ったわけであります。しかし、こういった人たちに対して我が国は普通の外国人と違った形で、よく法百二十六号ということで言われておりますが、協定の永住人あるいは特例永住人、こういったことで特別な処遇がされておるところであります

 ただ、これらの人たちについてもやはり外国人は外国人扱い、こういうことでずっと続いてきておりますが、私は、もう三世以下の人たちの地位をもっと法的に安定をさせて、つまり準日本人的処遇の必要がありはしないか、こういう気がするわけであります。私ども福井県にもこういった人たちがたくさんおられます。子供らが大きくなってきますと日本人と一緒に遊んでいるわけでございます。ところが十六歳になると指紋持ってこい、こういうことでございますから、見ておりますと、そのときに途端に、それまで私もこの町内の一員だ、あるいは仲間の一人だということで打ち解けてきていた態度が何かこう一歩下がって、何といいましょうか、ひとみの輝きが失われるというのでしょうか、猜疑心に陥るというのでしょうか、言葉は適当でないかもしれませんけれども、そういった現象をよく見かけるわけであります。

 つまり、この人たちは戦前日本の植民地政策によって日本に強制連行された人たち及びその子弟であり、今や二世三世がその大部分を占めるようになっております。彼らは日本で生まれ、日本語しかしゃべらず、日本社会との結びつきが非常に強く、もはや日本以外の地に生活の根拠を置くことは極めて困難な状態に置かれております。歴史的経緯から見て、彼らを一般外国人と切り離し、日本国民に準じた処遇をすることは当然であり日本政府の責任であると思うのでございますが、いかがでございますか。

102 - 衆 - 法務委員会 - 21号 昭和60年06月05日

○三浦(隆)委員 それでは、これも恐らくお答えできないだろうと思います。すなわち、年齢要件あるいは回数の要件、罰則の要件、この日本以上に厳しい指紋押捺制度を採用している国は何カ国ですかと私はお伺いしたかったのですが、恐らく世界で最高だろう、こう思うのです。そうすると、最も開かれた、国際化された時代に向かっていこうという我が国が、言葉とは裏腹に最も閉ざされた国の実情にある、そのことが国内外の批判の対象に入っているのじゃないかということが問題だと思うのです。我々から考えると共産圏のソ連あたりも大変ひどく感じられるのですが、実際にはソ連では指紋は一つもとっておらぬということなのですね。そうすると、何で日本の国が世界のどこの国よりも厳しくしなければならないのだろうか。日本の社会秩序というのは世界の中でむしろ恵まれたぐらいよい状況であるのに、取り締まり状況だけは世界の最先端をいかなければならぬ。これでは、今貿易摩擦その他でも日本はとやかく言われておりますが、これからの日本が生きていく上において極めてぐあいが悪いのではなかろうか。もう少し広い気持ちでおおらかに検討していただけないものかな、そういうことを感ずるわけでございます。

 さらに、告発の問題からあるいは登録済証明書の取り扱いの問題、いろいろとお尋ねしたいのですが、本当に残念ですが時間がございません。

 そこで、我が党の指紋に対する見解書、二回目でございますが、出されておりますので読ませていただきまして、法務大臣の御見解を承りたいと思います。

   在日外国人の指紋登録制について

            民  社  党

  在日外国人に対する指紋登録制は、虚偽登録の抑止等の観点から、昭和三十年以来実施されてきているが、指紋押捺の義務づけは犯罪人に似た取扱いであるとして在日外国人の間に反対意見が強く、指紋押捺を拒否する事例が増えてきている。

  このため、わが党は、在日外国人の人権保障とわが国の公共の福祉の要請とを調整する見地から、指紋登録制がこれまで果たしてきた役割及び諸外国の実態をふまえ、左記の骨子からなる指紋登録制の改革に全力を傾注する。

 一、在日外国人の指紋登録制は、人権保障の見地から抜本的な改廃をめざし、国際的な制度改正に向けてわが国としても積極的に貢献してゆくこととする。
 一、当面、わが国における在日外国人の指紋登録制については、国際慣習による相互主義の原則を適用することとし、外国に居住する日本人に対して指紋押捺を強制していない国の国籍を有する在日外国人については、指紋登録制を激発する。
 一、日韓地位協定(協定署名における法務大臣声明の趣旨を含む)に基づき、永住資格を有する在日韓国人については、わが国に居住するに至った歴史的経緯等にかんがみ、日本人に準ずる者として今後、指紋押捺及び外国人登録証明書の常時携帯は不要とする。

  なお、上記の制度改正は速やかに実現することとし、その間、自治体及び法務・警察当局は、指紋押捺拒否者に対する告発、逮捕等の措置について慎重を期すべきである。

以上でございますが、大臣の御見解を賜りたいと思います。

102 - 衆 - 予算委員会第二分科会 - 2号 昭和60年03月08日

○中野(寛)分科員 今の自治省の御答弁、言うならばその立場にないということですが、実際は結局自治省ではお手上げなんです。自治省でお手上げというよりも現場ではお手上げなんです。そういう状態の中で法務省はなおこれにこだわっていくのかどうか。私は大変そこに疑問と同時に大きな怒りを感じます。すなわち人権の問題としてとらまえられておりますけれども、実際上は形骸化してしまっているということは行政の実際の効果を上げ得ていないわけです。これは自治省、否定をなさらない。現実に、私自身は実際この目でこの耳でその担当者の皆さんから見聞をしているわけであります。こういうことを考えますときに、法務省としては当然実態に即した対応をせざるを得ない。今後ともそのままの状態で行くとするならば、それは法務省の怠慢であると言わざるを得ない。それを今度は逆に、私どもこう指摘したからといって、各自治体の窓口ちゃんとやれ、指紋でちゃんと見分けろと幾ら御指導なさろうと、実際は不可能であります。こういう状態の中で法務省としての決断が迫られていると言っても過言ではないと思うのであります。

 ちなみに、先般韓国居民団の皆さんから衆参両院議長あてに請願書が提出されました。総数百八十一万余の署名に基づくものであります。在日韓国人の人口数とこの署名者の数字を比較していただければ、いかに多くの日本人がこの署名に参加したかということもおわかりいただけると思います。

 そう長い文章ではありませんから、この請願の趣旨を改めてここで読み上げます。

  われわれ、在日韓国人は、外国人登録法に規定されている指紋押捺制度の改正を請願するものであります。その理由は、外国人登録に際し、指紋押捺を強いられることによって著じるしく屈辱感を覚ゆると共に、人権差別を感ずるのであります。また外国人登録証の常時携帯の義務は、一般外国人と異り、歴史的事情による特殊な在留経緯をもち、しかも長い年月に亘って日本社会に深く根をおろし日本国民と何らかわらない生活を営んでいる在日韓国人にとっては、いまや不必要な規定と思われます。

  在日韓国人は一九六五年、法的地位協定による協定永住権者であり、同協定に際し、日本国民に準ずる待遇をするという法務大臣の特別声明を御配慮されることを切に願いつつここに次の事項につき署名をそえて請願いたします。

    請願項目
 一、永住韓国人に対し、指紋押捺制度の廃止。
 一、永住韓国人に対し、外国人登録証の常時携帯制度の廃止。

これは既に法務大臣御存じのことだと思います。ここに記載されております「歴史的事情による特殊な在留経緯」についてはもう今さら説明を申し上げるまでもないことであります。これらのことを勘案しながら、法務省としては格別の御判断と御配慮が必要かと思います。

 ここで私の意見を一つだけ申し上げたいと思います。

 世界で二十数カ国しか実施されていないこの指紋押捺制度は、原則的に人権的に見ても本来廃止されるものと考えます。しかし、そこに至るまでの間は外交的には相互主義に基づいてこの種問題は処理されていることもよく承知をいたしております。ですから、他の国々との関係において一般永住者については相互主義によってこの問題が処理されるということも一つの判断材料だと思います。このことについて、法務省として御考慮の余地がありますかどうか、お尋ねをいたします。

 あわせまして、この相互主義による措置になじまない存在があります。それが今読み上げました在日韓国人、協定永住者であります。歴史的経緯によってわざわざ協定が結ばれて、そしてこの在日韓国人だけが協定というものによって保障された永住資格が与えられているわけでありますけれども、それはまさに歴史的経緯に基づいて日本人と同じ扱いをされるべきものと位置づけられている存在であります。ゆえに、この存在だけは相互主義にさえもなじまない。むしろそれこそ特別に日本人と同じ扱い、すなわち指紋押捺そしてまた外国人登録証の常時携帯等については廃止されるべきものだと考えるわけであります。

 以上の点について、法務省の御見解をお尋ねいたします。

資料イ

118 - 衆 - 法務委員会 - 3号 平成02年04月17日

○中野委員 きょうの朝刊を読んでおりますと、非常に大きな記事で、日韓議員連盟竹下登会長が訪韓をされ韓国の盧泰愚大統領と会談をされた中で、在日韓国人の三世問題についてまさに日韓間に存在する最大の政治課題として取り上げられ、そして盧泰愚大統領訪日を契機としてこの歴史的な問題をぜひとも解決し、日韓間の真の友好親善のために大きな役割を果たしたい、今日まで日韓間には不幸な歴史が幾たびかありましたけれども、逆にそれらを国民感情の中から一気に払拭する絶好のチャンスであるという意味のことが報道されておりました。
 先般、予算委員会におきましても、法務大臣にそのことを中心に若干の質問をさせていただいたわけでありますが、私は過去十三年ほどこの問題を当委員会や予算委員会等で取り上げ続けてまいりましたし、そしてまた、先般予算委員会で申し上げましたが、十年前に訪韓をいたしました際に、まだ国軍保安司令官であった現在の盧泰愚大統領にお会いをいたしました際に、この在日韓国人の問題についてはむしろ韓国政府としても最大関心事をもって臨んでいただきたい、とりわけ三世問題についてはまだ十年あるとはいえ、当時ですとまだ十年あったわけですが、これは韓国側から問題提起をする、申し入れをするということに法的地位協定ではなっている、この問題については簡単に日本の国内事情を調整することができるわけではないわけでありますから、年月がかかるわけでありますから、これについては早急に取り組むべきだ、それを韓国政府サイドとしても日本政府に申し入れるべきである、我々も日本国内において、この問題は韓国のためとか韓国人のためとかいうのじゃなくて、むしろ日本国及び日本国民の名誉にかけて、人権を尊重する日本人であることを国際社会に認めてもらう、日本人の名誉にかけて我々としては取り組みたい、こういうことを申し上げたことを思い起こすわけであります。
 今まさにその正念場を迎えた時期に当たって、テーマが八つほどございますけれども、きょうは法務省、外務省そして自治省、文部省、その四省の皆さんに、ぜひともこれは特別な歴史的経緯を踏まえて対応しなければならないんだ。諸外国との関係は相互主義ですとか均てんですとかいろいろな文言が使われますけれども、事在日韓国人に関する限りは、無理に強制的に日本に連れてこられ、場合によっては一番厳しい仕事を日本でやらされ、そして日本国籍を強制的に押しつけられ、戦争が終わった段階では、本人の選択の自由もなくまた韓国籍に戻されたという経緯があるわけでありますから、その原点に立ってこの問題は考えなければならない。しかも、現在、永住資格を取り、そして日本人社会の中において日本人と同じように生活をし、教育を受け、納税の義務を果たし、そういう生活を送っている人たちに対してとりわけの配慮をしなければならないという考え方の中で我々としてはこの問題に取り組まなければならぬと思うわけであります。
 永住権の付与につきましては、これは永住権という権利の権をどうするのかという言葉の解釈上の問題があるでありましょうけれども、永住権の付与等につきましてはおよそ見通しがついたというふうに考えておりますけれども、法務省における、退去強制、再入国許可制度、指紋押捺登録証常時携帯、これらのことにつきましては、ある意味では、現在生まれております三世が例えば指紋押捺をするまでには十六年間、まだ時間的ゆとりもございますが、少なくとも日本人と同じ扱いをするという視点に立って解決されなければならない、こう思うわけでありますし、また公務員採用の問題は、民間企業等に積極的に平等に採用されるということの裏づけ、まず官民の官が率先して取り組むという姿勢を示すことによって民間企業に対する協力要請というのは十分可能になってくるわけでありますから、そういうことを含めて考えなければなりません。これは一般公務員及び小中高等学校の教員についても同じことが言えようかと思います。
 よく、今日までの論議の中で、当然の法理として国籍条項等が制定をされたり、国籍条項がなくても当然の法理として一つの制限を設けたりということがございましたけれども、その当然の法理も、時代の変遷や科学技術の進歩や、そしてお互いの国民感情や国際情勢においてその解釈は当然変化があり得るものと思うわけであります。日本の国会が、そしてまた法務省が、それらのことについて新しい時代にマッチした解釈をすることによって問題は進展をするということもあり得ると考えるわけでございまして、その両面から積極的な取り組みが必要であろう、こう私は思うわけでありまして、まず基本的に法務大臣からこのことについての御見解をお尋ねしたいと思います。